⾷品メーカーの開発現場で求められる 「スターチ」の基礎知識

普段から⾝近にある⾷材のでん粉。⾷品製造業においてもその特性を活かし、⾷味の改善や保存性の向上、原価低減など様々な⽤途に使われています。

今回はでん粉についての基本的な特性や⽤途、加⼯⽅法などをご紹介し、新たに⾷品メーカーの開発チームに配属された⼈やでん粉の活⽤について改めて学びなおしたいと考えている⼈に対して基礎知識をまとめてお伝えしたいと思います。

そもそもでん粉とは? 何から作られる?

「でん粉」は、植物が光合成をおこなうことによって⽣成される物質で、根や種⼦、幹や果実などに蓄えられます。ほとんどの植物に存在するため様々な原料がありますが、代表的なものとしてはトウモロコシから採れる「コーンスターチ」、じゃがいもから採れる「馬鈴薯でん粉(片栗粉)」、サツマイモから採れる「⽢藷でん粉」、キャッサバから採れる「タピオカでん粉」などがあります。

でん粉の種類

でん粉は、どのような⽤途で使われる?

でん粉は古くから様々な食品の食感改良に活用されてきました。良く知られているところでは、冷凍うどんにタピオカでん粉が使われていることが挙げられます。うどんを作る際にこのタピオカでん粉が⼊ることでうどんがもちもちと弾力のある食感になり、さらに湯で時間を短縮できたり伸びてしまうのを防ぐのです。

家庭⽤での⽤途としては⽚栗粉が有名です。⽔溶き⽚栗粉と⾔えば和食や中華料理を作る際にとろみ付けで使われるでん粉の代表格であり、具材にタレやつゆ、餡などがよく絡むように特性を変化させる効果をもたらします。

⾷品製造の現場ではでん粉への要求も⾼度化しており、天然のでん粉だけで要求に応えることが難しいケースも出てきています。そのため原料メーカーは細かなニーズに対応するため様々な加⼯を⾏うことで新たな特性を持つ「加⼯でん粉」を開発し、期待に応え続けています。

原材料ごとの特性の違いは?

多くの原材料から精製されるでん粉ですが、それを構成する「アミロース(直鎖)」と「アミロペクチン(分岐鎖)」という高分子の割合によって粘りや硬さなどの性質が異なってくるのです。

アミロースとアミロペクチンの構造

でん粉のアミロース含量 *参考値

でん粉種 アミロース含量
ワキシーコーンスターチ 0%
タピオカでん粉 17%
馬鈴薯でん粉(片栗粉) 20%
コーンスターチ 26%
ハイアミロースコーンスターチ 70%

調理条時の水分量によってでん粉の特性は「糊化(約80%以上)」「ゲル化(約20~80%」「膨化(約20%以下)」に分けられますが、それぞれの状態における原材料でん粉ごとの違いを見ていきましょう。

糊の状態(水分約80%以上)

糊の状態はとろみ付けに使われることが多く、カレーや餡が代表的な⽤途となります。アミロース含有量が少ないととろみが強くなり、粘りが強くしっかりと⾷材と絡みます。逆にアミロース含量が多いと粘りが少なくなるためキレの良いとろみがつきやすくなります。前者は餡掛けの餡やみたらし団子のタレなどに、後者はカレーやシチューなどに使われることが多くなっています。

みたらし団子とカレーのアミロース含有量

ゲルの状態(水分約20~80%)

ゲルの状態はうどんやラーメンなどの麺類、パン、餅、パンケーキなど幅広い⾷品に活⽤されます。アミロース含有量が少ないと柔らかく粘りが強いゲルとなり、含有量が多いと固くもろいゲルとなります。この特性によりアミロースが少ないもち⽶は軟らかく伸びのある餅に、適度にアミロースを含む小麦はコシのあるうどんやラーメンなどに変化します。

餅とうどんのアミロース含有量

膨化の状態(水分約20%以下)

でん粉に少量の水分を加えて生地にしたものを高温で加熱すると膨らむ特性があります。
アミロース含有量が少ないと⼤きく膨らみ、多いとあまり膨らみません。おかきのような軽くサクッとした⾷感が欲しければアミロース含有量が少ないもち⽶を使い、おせんべいのようなパリッとした固い⾷感が欲しければうるち⽶のような原材料を使⽤します。

煎餅の種類とアミロース含有量

でん粉が持つ「弱点」とは!?

家庭でも⾷品メーカーでもよく使われるでん粉ですが、弱点もあります。
ただのでん粉の場合、そのとろみは、⽕を通しすぎた時に再度「シャバシャバ」した状態になってしまいますし、うどんも冷めたあとで時間が経ってしまうとボソボソした⾷感になります。

弱点を補い、より便利に活⽤できる「加⼯でん粉」とは?

そんなでん粉の弱点を補ってより便利に活⽤するために特性を強化したものが「加⼯でん粉」です。原材料(トウモロコシなど)から、でん粉を抽出・精製することを⼀次加⼯と⾔い、これによって作られた製品が未加⼯でん粉。そこに化学加⼯または物理加⼯を加えたものが加⼯でん粉となります。

加工でん粉の製造プロセス

でん粉は粉末の状態に加⽔加熱を⾏うことで変化する「糊化」、糊化状態のでん粉が時間経過とともに冷却され変化する「⽼化」と⾔った特性変化が発⽣します。加⼯でん粉はこの各特性をニーズに合わせて調整することを⽬的として⾏われるのです。

「加⼯でん粉」の代表例

でん粉の⽤途は広範にわたっていますが、それはイコールその分⽤途ごとに求められる特性が異なるということにもつながります。そのため細かい加⼯⽅法や調整⽅法は多岐に渡るのですが、まずは代表的なものをご紹介します。

保⽔性を⾼め品質維持を⾏う「耐⽼化」

冷凍うどん

⽔分を含んで糊化したでん粉は冷却や時間経過によって⽔分が失われます(離⽔)。
この現象を「⽼化」と呼び、それを防ぐために⾏われるのが耐⽼化加⼯です。

加⼯⽅法はアセチル化、エーテル化があり、加⼯のイメージとしては分⼦構造にくさびを打ち込み、糊化した後に分⼦が結合しないように隙間をあけた状態を維持します。これにより、糊化して水分を保持したでん粉が脱水されにくくなり調理直後の水々しい状態を保つことができるようになります。

でん粉の利⽤⽤途の項で挙げた冷凍うどんや、コンビニやスーパーで並んでいるチルド麺にはこの加⼯が施されたでん粉が利⽤されていることが多く、調理直後の出来立て感を維持するのに貢献しております。

分⼦の崩壊や断裂に耐える「膨潤抑制」

かまぼこ

タレやソース、フィリング類などの加⼯⾷品の製造で⽋かせないのが品質を均質化するための高速攪拌です。しかし、でん粉の分⼦は切断に弱い特性があり、強い攪拌などの機械的なせん断力が加わると分⼦が断ち切られて粘度が低下してしまうことがあります。

また、保存性を⾼めるための⾼温殺菌も弱点です。でん粉⾃体は水の存在下で加熱されると⽔分を吸収(膨潤)し膨らむのですが、⾼温で⻑時間加熱すると限界を迎え、崩壊して粘度を保てなくなってしまいます。

こうした環境に耐える特性を付与できるのが架橋と呼ばれる加⼯です。名称の通り、でん粉の分子同士を橋架けすることによりその構造を強固にすることで、でん粉の分⼦同⼠の結合がほどけないようくっつけられ、崩壊や断裂を防⽌することが可能になります。

てんぷらのサクッとした触感を実現する「低分子化」

天ぷら

⼀般的にてんぷらの醍醐味と⾔えば、サクッとした軽い⾷感です。
この⾷感を出すために⼤切なのは、⾐が空気を含んでしっかりと膨らむことです。

でん粉でこの課題を解決するために活⽤されている加⼯が低分子化加⼯です。この加⼯はでん粉の分⼦を物理的、化学的、酵素的な方法で分解します。

各分⼦は⼩さくなったことで抱え込める⽔分量が減るため粘度が下がり、同時に膨化度が向上します。てんぷらの⾐にこの低粘度化加⼯されたでん粉を混ぜると、油の中に⼊れた際に、でん粉鎖が散りやすくなり⼤きく膨化し多数の⼤きな孔を作り出します。
孔が⼤きい分、油に触れる表⾯積も広がり、⽔分が抜けやすくサクッとした⾷感が出てくるのです。

冷⽔糊化

ホットケーキミックス

でん粉が糊化してとろみを発現するには熱と水が必要ですが、食品の中には加熱を行わずに水を加えるだけでとろみや粘度付けをしたいというケースがあります。具体的なケースとしては、水と合わせるだけで適度に粘度が出せるホットケーキミックス粉です。

でん粉を糊化させた後に急速乾燥させると、糊化した状態のままでん粉の分⼦構造が固定されます。本来は糊化のために加⽔と共に加熱することででん粉分⼦の隙間を広げていたのが、この急速乾燥させたでん粉は最初から分⼦の隙間ができた状態になっているため⽔を加えるだけで粘度を発現します。

この特性を活⽤し、増粘剤として使われているのがホットケーキミックス粉やフライに使⽤するバッター液などになります。

まとめ

  • でん粉は穀類、いも類、根・茎、⾖類と多種多様な原材料から作られています。
  • 原料ごとにアミロース含有量が異なり、その違いによって糊、ゲル、膨化それぞれに特性の違いが出てきます。
  • でん粉には⼆次加⼯によって元々の特性を更に改質した加⼯でん粉があり、「糊化」「⽼化」させた時の性状を変化させることを⽬的として作られています。
  • 代表的な⼆次加⼯⽅法には「耐⽼化」「膨潤抑制」「低分子化」「冷⽔糊化」があり、化学的、物理的、酵素的な加⼯を加えることで特性を変化させることができます。