『おいしい食感と食品構造』上編ー食品構造工学と”おいしい食感デザイン”

食品のおいしさに欠かせない「食感」。今回は、食感を”見える化“し、”デザイン“することでおいしさを実現する研究を続けている明治大学の中村卓教授に、食品構造工学からおいしさをデザインする考え方について伺いました。

中村卓 教授:

京都大学大学院農学研究科食品工学專攻博士後期課程修了。食品メ一カーにてでん粉や油脂などの食品素材と加工食品の研究開発・製造・販売に携わったのち、明治大学農学部に着任。食品構造工学を研究し、食品のおいしさを食品構造から追究している。

食品構造工学と”おいしい食感デザイン”

食品に望まれる属性として、安全・健康・おいしさ・価格があります。私たちの研究室では「おいしさ」を食品サイドから追究し、食品構造からおいしい食品をデザインする『食品構造工学』の確立を目指しています。特に、おいしさは咀嚼による食品構造の破壊に伴う変化にあるという立場から研究を進めています。

「おいしい」と食感の関係

「おいしさ」について、ヒトからの視点である認知心理学における嗜好性(快)から整理すると、おいしさとは親近性と新奇性のあいだの「覚醒ポテンシャル領域」に最大値があると考えられています。親近性は単純接触効果で知られる馴染みのあるものを好む、いわゆる「おふくろの味」に代表される期待通りのほっこりするおいしさ。新奇性は変化や複雑さから受ける刺激による、おもしろさに代表されるワクワクするおいしさです。

例えば、焼き鳥屋でフワッとしたつくねもおいしいです。これは、ヒトが処理流暢性を好む点から噛み易いやわらかさを好むためと考えられます。さらにつくねの周りにとろ〜りとした黄身を付け、中にコリっとした軟骨が入っていると変化がありよりおいしく感じると思います。しかし、ガリっとした骨が入っていると誰もが異物混入と思います。コリっとした軟骨がどの程度の大きさでどれくらいの量入っていると好ましいかを決定する必要があります。このように、新商品を開発するためには目標として感性的に表現されたおいしさを具現化することが大切です。

 

食品の視点からおいしさの要因を整理すると、風味と食感に分けられます。風味の味や香りというのは化学的要因で、例えば、舌にあるセンサーが感知した刺激が脳に送られ、「甘い」「しょっぱい」「すっぱい」といった味を感じます。一方、食感は物理的要因です。専用のセンサーがある味覚や嗅覚などとは異なり、食感は触覚の刺激として食べものを捉え「かたい」「やわらかい」と感じます。つまり、食感は、食べものを口に入れたときの感覚で、食べものが圧縮や破壊されたときの変化を刺激として受とるのです。そのため、複雑で不均質な構造になっている食べものほど、さまざまな種類の刺激を感じ、それがおいしさにつながると考えられます。

 

食品構造工学と“おいしい食感デザイン”

図:食品構造工学とは

おいしさは人それぞれ違うので、定義することは難しいのです。しかし、食品構造と食感の関係性を明らかにすることで、多くの人が感じる「おいしい食感」を知り、それらを「つくる=デザインする」ことができると考えています。そのために、食品加工の過程でタンパク質・でん粉・油脂のような高分子成分がどのような変化を経て食品構造を形成するのか。また咀嚼による構造破壊に伴うどのような状態変化からおいしい食感が発現するのか。この過程を具体的にイメージすることが、「おいしい食感デザイン」につながります。

 

次回コラム『おいしい食感と食品構造』中編では、「今の食品開発に求められる、『感性的食感』の実現」をテーマに、「2次元食感マップ」のご説明と実例をご紹介します。お見逃しなくご覧ください!